困るなぁ。
認知症のおばあちゃんを介護しているけど、家にいるのに「帰りたい」っていう・・・。
どうすればいいんだろう?
こんな状態でもグループホームに入れるのかなぁ
ケアマネさんにどうやって言えばいいんだろう。
こんな疑問を解決します。
40代、50代になると親の介護問題が徐々に始まってきます。
仕事が忙しいなか、在宅介護をしているとイライラもつもります。
介護をしていて困る症状が「帰宅願望」です。
ずっと「帰りたい」と訴え、しまいには衣服や貴重品をまとめて出かける準備をしてしまうことも珍しくありません。
どう対応していいのか悩ましいところです。
基本的に「気づき」で解決できる部分が多いですが、認知症の進行度合いに応じて内服薬で調整していくことも必要になります。
認知症の帰宅願望には、まわりが気づいてあげなければいけない意味が隠されています。
基本的には「解決できます」のでご安心ください。
大切なことは、イライラせず本人について考えて対応していくこと
執筆者の経歴
- 作業療法士10年以上
- 勤務歴(病院・介護施設・児童支援・就労支援)
- 現在は就労支援に従事(障害のある方のリクルート)
私の支援のはじまりは認知症介護です。
施設で勤務していると、決まった時間になるとこんな会話が聞こえてきます。
毎日、同じ光景の繰り返しです。
正直なところ、介護士さんも疲弊していましたし、対応が雑になる職員さんを何人も見てきています。
こういったお年寄りと関わった経験をまとめていきますので、在宅介護などでご活用ください。
認知症の帰宅願望の対応方法
この記事は以下に絞ってお伝えをしていきたいと思います。
- 認知症の「帰宅願望」って何なの?概要を説明
- 認知症でみられる帰宅願望の対応方法とは?
- 認知症で帰宅願望がある場合のケアプラン例
- 【認知症】帰宅願望があってもグループホームでなれるの?
- 認知症で帰宅願望があっても施設にいれるの?
認知症の祖父(おじいちゃん)、祖母(おばあちゃん)の介護をひとりで行うと、介護疲れでイライラし、家族へのあたりも強くなります。
- 離婚する
- モノにあたる
- 暴力を振るってしまう
など、悪いことばかりになってしまいます。
前述しましたが、
大切なことは、本人について考えて対応をする
介護者だけがつらいわけではありません。
入院先の「病院」や「入所施設」でもこういったことが多々あります。
医療機関では、ベッド柵に身体拘束をする対応を行います。
点滴を抜去(抜かないよう)「命」が最優先されるためです。
こういった状況になってしまうと、認知症を患っている本人もつらいですし、まわりもつらいです。
そこで考えていきたいのが「理由」です。
知っているか、知らないかで、対応に明らかな「差」が生まれますので認知症の知識を深めていきましょう。
認知症の「帰宅願望」って何なの?概要を説明
以下について解説していきます。
- 帰宅願望は統合失調症など精神病なの?
- 帰宅願望は認知症の中核症状、BPSD
- 帰宅願望は夕暮れ症候群
- 帰宅願望の原因のひとつ「不快な気持ち」
- 帰宅願望が出る要因に「環境因子」が関係
帰宅願望は統合失調症など精神病なの?
「認知症」と「統合失調症」は要因が異なる別の疾患です。
帰宅願望がある ≠ 統合失調症
⏬ 「統合失調症」については下記で解説済み ⏬
⏬「認知症の概要」についてはこちらの記事 ⏬
帰宅願望は認知症の中核症状、BPSDが関係
広島県のページがわかりやすいです。
中核症状が認知症のメインになる症状で、以下が当てはまります。
認知症の中核症状
- 記憶障害 :物忘れ
- 判断能力の低下:いいか、悪いか などの判断
- 見当識障害 :日付が分からない、今いる場所が分からない など
- 実行機能障害 :服が切れない、箸が使えない、洗体ができない など
行動心理症状は「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」の略称で、いわゆる困りごとが当てはまります。
BPSD(行動心理症状)
- 徘徊 :目的もなく歩き回る(帰宅願望)
- 不潔行為 :弄便(ろうべん:汚物で遊ぶ)
- うつ症状 :うつ状態
- 意欲低下 :やる気がおきない
- 収集癖 :不必要なものを集める(ごみ収集)
- 暴言、暴力:叫ぶ、蹴る、殴る、ひっかく など
- 不安症状 :常に困った表情
- 幻覚 :見えないものをが見える
- 妄想 :考えを自分で訂正できない
など
BPSDは、
- 本人の性格
- 環境因子
- 育ってきた過程
など様々な要因と、中核症状が絡んでいきます。
BPSDの助長は「心理的要因の未解決」
一緒に考えていきましょう。
例えば「不潔行為:弄便(ろうべん)」
なぜ、「便」で遊ぶのでしょうか?
こんなふうに考えられます。
ちょっと極端ですが、
- 中核症状(見当識、実行機能障害)
- 焦りや恥じらい(人間としての気持ち)
- どうにかしようとして、手が汚れる
- 汚れた手をキレイにするため、こすりつける
こんな流れで「弄便」が完成されます。
この図解の原因は「トイレが分からなかった」
こんな場合の対応方法は、
など
解決できない部分を助けることで、周辺症状(BPSD)が抑えられることがあります。
帰宅願望は「夕暮れ症候群」
認知症の方は夕方になると「そわそわ」し、精神状態が悪くなることがみられます。
「夕暮れ症候群」といい、以下をいいます。
1.夕暮れ症候群の臨床的特徴
参考文献:認知症患者の夜間にみられる精神症状および行動症状
夕暮れ症候群(Sundown syndrome)は、認知症患者において、夕方から夜間にかけて、焦燥、攻撃性、徘徊、せん妄的言動などの症状が憎悪する状態をさす
(中略)
2.夕暮れ症候群の原因
脳の変性によるサーカディアンリズムの障害を基盤に、日中の日照不足、疼痛や便秘など不快な身体症状、日中鎮静の原因となる薬剤の仕様など多岐にわたる原因が挙げられる。
参考文献:認知症患者の夜間にみられる精神症状および行動症状
サーカディアンリズムは「概日リズム」ともいい、私たちの体内時計です。
概日リズムが「脳の萎縮」で変化する
脳の萎縮によって機能低下が起き、体内時計が狂ってしまうとホルモン、自律神経も影響をうけます。
夕方から夜になると就寝準備に入るため体は落ち着いてくるはずが興奮状態になったり、朝になっても体が起きなかったり、体内変化が起きます。
原因は前述の通り、痛みや便秘など不快症状によっても引き起こされます。
ポイントは「生活リズムの乱れ」
生活で考えると納得できる部分がある(臨床経験を踏まえ)
認知症の中核症状に「見当識障害」があります。
サーカディアンリズム(概日リズム)の乱れ、脳の抑制が低下してしまうこともあわさって、夕方になると居場所がわからなくなり「帰りたい」という衝動に駆られてしまいます。
「認知症は子どもに戻る」と言われたりもしますが、夕方になると「家に帰る」のが一般的な考え方です。
なぜなら、家で「夕食」を食べますから。
場所はわからなくても、本能的に「自分の居場所に戻りたい(帰宅願望)」という気持ちが全面に出るのかもしれません。
ポイントは「人間の本能」
医学面、生活面から帰宅願望を考えると、なんとなく納得できる部分はありませんか?
後者のほうが一般的にはわかりやすいかもしれません。
帰宅願望の原因のひとつ「不快な気持ち」
認知症の中核症状を思い出してください。
「物忘れ」は「話す言葉」を忘れることも当然あります。
不快な気持ちを発信することができずにいる場合がありますので、こちらで「配慮」していくと解決できます。
例えば、
- 便秘でお腹が張って調子が悪い
- 話を聞いてもらえたいけど、どうすればいいか分からない
- これからどうすればいいのか分からない
- 頭が痛い
- 体調が悪い
- 腹が減った
など、様々あります。
こういった要因で帰宅願望が出たときの本人の気持ちは、
こんな気持ちになっていると思います。
帰宅して自分の家にいれば落ち着きますから。
日頃からご本人の生活を看ていくことは大切であると言えます。
帰宅願望が出る要因に「環境因子」が関係
とくに生活している環境因子も帰宅願望の原因に絡んできます。
例えば、
- 部屋が暑い、寒い
- ベッドの寝心地が悪い
- どこにいるのか、自分の居場所が分からない
- 回りうるさい
- 家の中から外がちっとも見えない
- こんな家具みたことない
- 電気が明るすぎる、まぶしい
など、たくさんあります。
- 自分が経験してきた環境と違う
- 自分が暮らしてきたものじゃない
↓
自分の居た場所に帰ろう(帰宅願望)
こんな流れで帰宅願望につながってきます。
認知症の中核症状は記憶障害で「忘れていく」ことです。
安心を得るために「帰宅願望」が出ることも理解できるのではないでしょうか。
認知症でみられる帰宅願望の対応方法とは?
基本的な対応方法は以下です。
解説していきます。
- バリデーション技法に基づいた対応が大切
- 相手の気持ちを一緒に理解する
- 一緒に行動することが大切
- 環境を整える
バリデーション技法に基づいた対応が大切
認知症の方への対応方法に「バリデーション」というコミュニケーション技法があります。
以下、引用です。
バリデーションという言葉そのものには「強化する」「承認する」という意味があり、
コミュニケーション法としてのバリデーションは、認知症高齢者に共感して耳を傾け、評価することなく認知症高齢者にとっての現実を受け入れることだと、創始者であるアメリカ人ソーシャルワーカー、ナオミ・ファイルは述べている7)
(中略)
バリデーションは、認知症で失っていく認知機能ではなく、認知症であっても失わない感情機能に注目している。それが認知症高齢者の行動について「問題行動」ではなく、「人生の課題に奮闘している行動」である、と彼らの立場から説明することを可能にした。
さらに、バリデーションの具体的なテクニックによって、彼らの気持ちに沿った行動への対応が示された。これまで容認してきた嘘やごまかしといった人の尊厳を脅かすような対応をせず、徹底的に認知症高齢者の立場に立ち、共感と尊厳を具体的に実現可能にしたコ
ミュニケーション法であるといえよう。
引用:認知症高齢者とのコミュニケーション「バリデーション」に関する研究動向 ̶文献レビューからの考察̶
認知症は、記憶は薄れていきますが、人間が本来持ち合わせている感情は失われません。
気に入らないときは怒りますし、家族に会えて嬉しい気持ちになったり、悲しときは涙も流します。
「本人の立場に立って一緒に考えていくこと」が基本的な対応と言えます。
相手の気持ちを一緒に理解する
帰宅願望がみられると対応に追われて余裕がわかなくなります。
介助者がイライラしてしまうことも当然あります。
在宅介護をしている場合は「身内」ですから余計に沸きます。
しかし、激怒したところで解決はしません。
対応のコツ:一歩距離をおいて考えてみる
相手との距離感が近いと余計に視野や思考の幅も狭くなりがちで、余裕が沸きにくくなります。
一歩距離をとって、相手の気持ちを一緒に考えてみましょう。
相手の気持ちを考えるコツとして、以下の項目をご参考に
共感して、相手の尊厳を守ることが落ちつくことに繋がってきます。
「どうしたの?」
こんな声かけする対応でも相手にはしっかり届きます。あなたにとっては大したことでは無くても、認知症の方からすれば大問題であったりします。
共感していく姿勢をもっていきましょう。
一緒に行動することが大切
帰宅願望がみられとウロウロしたり、同じような行動を繰り返すことがあります。
このような対応は逆効果で、怒りや不安をあおってしまいがちです。
対応のコツ:親身に一緒に行動
帰宅願望がどうしても収まらない場合、一緒に外にいく対応も悪くありません。
とことん共感し、とことん付き合ってあげて、諦めがつくまでやってあげる。
本人が納得すれば丸く収まるケースもあります。
(認知症の重症加減によっては収まらないケースもあります)
しかし、そのためには「つきっきり」になりますので時間が取られてしまいますが、誤った対応をして諸々大変な時間を過ごすより、共感して、本人に諦めてもらうことがいいように思います。
環境を整える
帰宅願望は「自分の居場所に戻って落ち着きたい」という意味があります。
居場所が分からなくなることは、認知症の見当識障害ですから、落ち着けるよう環境を整えていくことは大切と言えます。
対応のコツ:本人の生活歴を参考にしてみる
- 好きな家具
- 好きな色
- 馴染みのあるもの など
本人に関連するアイテムで、一日の大半を過ごせる居場所を整えてみましょう。
本人の過ごす場所は不確定にせず「決める」ことが大切です。
(例:こたつに座椅子や色違いの座布団をセットする など)
まわりを見渡して見たことがあるような景色が広がることで、帰宅しなくても居場所が認識でき、落ち着きに繋がってきます。
認知症で帰宅願望がある場合のケアプラン例
ケアプランとは「介護計画サービス」をいいます。
どんな介護サービスでサポートし、本人らしく生活できるかを示す大切なものです。
介護支援専門員(ケアマネージャー)の資格をもった方が作成できる権利を有します。
私はケアマネジャーの資格はありませんが、仕事でたくさんみてきたものを参考にしながら一例をお示しできればと思います。
ケアプランを立案する方によって、表現や内容は変わりますので、悪魔で事例として記載してみます。
ケアプランは目標の達成度合いに向けて定期的に見直しが必要ですが、こんな感じで記載してみました。
長期目標 ⇔ 短期目標 ⇔ 支援内容 がすべてリンクしている状態です。
【認知症】帰宅願望があってもグループホームに慣れるの?
結論:慣れます。
考え方が2つあります。
帰宅願望に結びつく「不安要因」が取り除かれると落ち着く
帰宅願望は本人なりの理由があって起こる行動です。
前述したことをもとに不安要因が取り除かれ、落ち着くことができれば解決できます。
認知症の方は環境変化に弱い特徴がある
住まいが変わっても本人の住み慣れた環境をできる限り調整し、不安事を取り除きながら日数をかけて過ごしていくことが必要です。(1週間では慣れないものです)
さらに、
- 本人の居場所が明確
- 本人とって役割があること
これからが整って、本人の中で確立していくことができれば、生活は可能です。
グループホームでは、多くの利用者様が生活をされています。
認知症が進行して帰宅願望が落ち着く場合がある
記憶の繋がりが中途半端に起こることで混乱してしまい、つねに不安に襲われて帰宅願望がみられているとすれば、認知症が少々進行することで不安が取り除かれるケースがあります。
捉え方の問題ではありますが、本人の幸せを考えた結果、認知症がある程度進行していくことで介護がしやすくなる考え方です。
「生活の質」という論点にはなりますが、
人間らしさという観点でみられば、「2」ではないでしょうか?
笑顔でいてくれた方が幸せを感じられます。
認知症で帰宅願望があっても施設にいれるの?
結論:問題なく、いれます。
認知症対応型のグループホームも多いですし、どこの認知症対応型の施設でも帰宅願望は見られます。
入所継続のため、帰宅願望の状況によって家族の力が必要
こんな状況のときは、施設側から求められます。
私が施設で勤務をしていたときのエピソードが参考になります(※別記事作成中)
施設にいても最低限、面会に行きましょう。
一度も面会に来なかったり、家族の協力が得られない場合、入所施設の規約によっては退所も十分有り得ます。
モラルある行動を行いましょう。
【まとめ】認知症の帰宅願望の対応方法【3項+α】
- 相手の気持ちを一緒に理解する
- 一緒に行動することが大切
- 環境を整える
「バリデーション」という技法を紹介させてもらいました。
帰宅願望は、本人がとてもツラい想いをしているサインです。
本人の困り事が解決していくよう、共感して、尊厳を保つための行動が大切です。
子どもっぽい対応は完全に間違いですのでやめましょう。
もし、自分が相手にやられたらどうでしょうか?
気分が悪くなりますよね?
同じことです。
本人について考えてみましょう。
今回のキーポイントでした。
認知症になると帰宅願望もありますが、怒りっぽくなく様子もありますので、あわせて理解を深めていただけると幸いです。
⏬ 認知症の詳細はこちら ⏬
⏬ 高齢者施設の詳細はこちら ⏬
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